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最高裁判所第二小法廷 昭和37年(オ)383号 判決

上告人兼附帯被上告人

八木ワカ

上告人兼附帯被上告人

八木弘治

上告人兼附帯被上告人

安達久枝

右三名代理人

大類武雄

金子作造

天順俊貞

被上告人兼附帯上告人

内田一二

代理人

吉永多賀誠

主文

本件上告および附帯上告を棄却する。

上告費用は上告人らの、附帯上告費用は附帯上告人の各負担とする。

理由

上告代理人大類武雄、同金子作造、同天順俊貞の上告理由第一点その一点について。

原判決の事実摘示、弁論の全趣旨および本件一件記録に徴すると、被上告人(附帯上告人)が上告人(附帯被上告人)らに代位して昭和三六年四月一一日本件八七坪三合の土地の分筆の届出をなしその地番を横浜市中区福富町東通二番地の二として分筆登記手続をなしたことは当事者間に争いがないとした原判決の説示は、これを是認できないわけでなく、原判決には、所論のような違法があるとは断じがたく、所論は、採用しがたい。

同第一点その二について。

上告理由第一点その一について判示したように、所論の点についての原判決の判断は、これを是認することができる以上、所論は、前提を欠き、排斥を免れない。

同第一点その三について。

本件一件記録によると、原審は、昭和三七年四月二四日、所論の更正決定について、さらに、明白なあやまりがあるとして、横浜市中区福富町東通二番地の二宅地七〇坪八合八勺(従前の土地同所同番地の二宅地七八坪三合)と更正する旨の更正決定をしていることが認められる。それゆえ、原判決の主文も、右の再度の更正決定のように更正されたものといわなければならない。そして、原判決によると、従前の土地同所東通二宅地八七坪三合の仮換地としては同所二番地の二宅地七〇坪八合八勺が指定された旨判示していることは明らかであり、結局、原判決には、所論のようなかしがないことになつたのである。

所論は、採用しがたい。

同第一点その四について。

本件土地上の建物が戦時罹災土地物件令附則三項の規定により同令施行の日である昭和二〇年七月一二日に滅失されたものとみなされ、同令三条の規定により、同日から罹災都市借地借家臨時処理法(同二二年九月一五日施行)二八条の規定により前記戦時罹災土地物件令が廃止された同二一年九月一五日まで、一年二月三日間賃貸借の期間の進行が停止された旨の原審の判断は正当としてこれを容認できる(所論は同年九月一五日まで算入した旨主張するが、原審が同年九月一五日を含めないで計算していることは計数上明らかである。)。

所論は、原判決を正解しないことに基づくものであつて、採用することができない。

同第二点その一について。

上告理由第一点その三に対する判断において判示したとおり、原審は、所論の主文中における目的物件の表示を、昭和三七年四月二四日、横浜市中区福富町東通二番地の二宅地七〇坪八合八勺(従前の土地同所同番地の二宅地八七坪三合)と更正決定をしているから、原判決の主文における目的物件の表示が、被上告人(附帯上告人)の主張する目的物件の表示と同一になつたことは、明らかである。また、被上告人(附帯上告人)からの無条件の土地引渡請求に対し所論のような条件を付して土地引渡の請求を認容したとしても、民訴法一八六条に違反するものとはいえない。

所論は、結局、原判決を正解しないか、または、独自の見解に立つて、これを非難するものであり、採るを得ない。

同第二点その二について。

原判決は、土地区画整理法九九条の規定の解釈に基づき、論旨指摘のような判示をしたにすぎず、所論のように、裁判所において、借地権の目的たるべき土地の位置、地積を指定ないし確定したものではない。従つて、所論違憲の主張も前提を欠き、論旨は採用しがたい。

附帯上告代理人吉永多賀誠の附帯上告理由について。

思うに、従前の土地につき賃借権を有するにすぎない者は、施行者から使用収益部分の指定を受けることによつてはじめて当該部分について現実に使用収益をなしうるにいたるのであつて、いまだ指定を受けない段階においては仮換地につき現実に使用収益をなし得ないものというべきである。従つて、仮換地の指定により従前の土地上の賃借人所有の建物がそのまま仮換地上に存することとなつた場合であつても、右賃借人としては、特段の事情もないのに、施行者に対して権利申告の手続をなさず、従つて、施行者による使用収益部分の指定もないまま右建物を所有してその敷地たる仮換地の使用収益を継続することは許されないと解すべきことは、すでに当裁判所の判決の説示するところであるが(大法廷判決昭和三四年(オ)第八四二号、昭和四〇年三月一〇日裁判所時報四二一号一頁参照)、この理は、従前の土地の賃借人が、たまたま一筆の土地の一部に賃借権を有するに過ぎないときであると、一筆の土地の全部に賃借権を有するときであるとで、異なることはないというべきである。

従つて、賃借人は、従前一筆の土地全部を賃借していた場合においても、仮換地を現実に使用収益するためには、施行者からの指定通知を必要と解すべきである。

それ故、これと同旨に出た原判決の結論は、相当というべきであつて、所論は、結局、失当として、排斥は免れない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

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